2007年10月5日金曜日

青空文庫を検索しよう【つぶさに】

 青空文庫とは、日本語の作品で著作権フリーになったものを集めたサイトです。これを用例データベースとして使い、ボキャビルをしてみましょう。

【今回の強化表現:つぶさに】

 「詳細に」「ことごとく、もれなく」という意味です。では用例を見てみましょう。

此頃は市内に住んでゐるが、長く村に住み慣れてゐた。その後暑さ寒さの何年かを冬は流氷の流れ寄る網走(あばしり)に送つた。再び上川(かみかは)に歸つて來てからは、劍淵(けんぶち)村の市街地に住んで自分で鍬を取り、冷害による凶作の慘をつぶさになめもした。
(東旭川村にて 島木健作)

若いうちは、中途半端な事に何の怖ろしさもなく、無性に自信を持つてゐたものだけれども、もう、五十の年をきいては、中途半端でゐる事は何よりも不安至極で、人間として少しも値打ちのないやうな空白を感じてくる。この懷(おもひ)つぶさに云ひがたしで、隆吉は、刻み煙草に火をつけながら、ぽつぽつ家へ戻らうかと思つた。
(崩浪亭主人 林芙美子)

実際、古語にも「可愛い子には旅をさせろ」というが、それと同じく、小説を書くには、若い時代の苦労が第一なのだ。金のある人などは、真に生活の苦労を知ることは出来ないかも知れないが、とにかく、若い人は、つぶさに人生の辛酸を嘗(な)めることが大切である。
(小説家たらんとする青年に与う 菊池寛)

その二人のお身の上をつぶさに聞けば聞くほど、何か私も身につまされて、そう云うお暮らしではさぞその御方もこの世に思いの残るような事ばかりであろうと思いやられるのだった。
(ほととぎす 堀辰雄)

これ即ち、今晩の呼び物であったかと推察し、箸につまんで口中へ放り込み、つぶさに奥歯と舌端で耽味したのであったが、これはまたほんとうに何の味も素っ気もないものであった。
(たぬき汁 佐藤垢石)

何んとかしてこの胸に余る思いをつぶさにこの人にも分からせようがものはないかと思えば思うほど、私はあの方に向っては一ことも物を言うことが出来ずにしまうのだった。
(かげろうの日記 堀辰雄)

人情の向背(こうはい)も、世故(せこ)の転変も、つぶさに味って来た彼の眼(まなこ)から見れば、彼等の変心の多くは、自然すぎるほど自然であった。
(或日の大石内蔵助 芥川龍之介)

お角さんとしては、実際に立会って、つぶさに二人の者を観察したようですが、その報告はまだ纏(まと)まって伊太夫の前に齎(もたら)されず、また齎される遑(いとま)もなく、取巻子は幾度か同じような場所で、同じような情景を見せられることに奇異の感情を加えただけで、何が何やら煙に巻かれているような事体のうちに夜が明けなんとしました。
(大菩薩峠 京の夢おう坂の夢の巻 中里介山)

「私は鉄(くろがね)の鎖(くさり)に縛(いましめ)られたものを見た事がございまする。怪鳥に悩まされるものゝ姿も、具(つぶさ)に写しとりました。されば罪人の呵責(かしやく)に苦しむ様も知らぬと申されませぬ。又獄卒は――」
(地獄変 芥川龍之介)


 広辞苑には「具に・悉に・備に」という三通りの漢字が載っていますが、ひらがなで書くのが一般的のようです。