【今回の強化表現:くれぐれ】
「何度も繰り返すさま」「相手に念を押すさま」を表す言葉です。では用例を見てみましょう。
「山男、これからいたづら止(や)めて呉(け)ろよ。くれぐれ頼むぞ、これからいたづら止めで呉ろよ。」
(狼森と笊森、盗森 宮沢賢治)
呉々(くれぐれ)も妻は己の職業に慢心(まんしん)して大切にして貰(もら)う夫に狎(な)れ、かりにも威張(いば)ったり増長(ぞうちょう)せぬこと。
(良人教育十四種 岡本かの子)
ほどなく寂然(ひっそり)として寐(ね)に就きそうだから、汽車の中でもくれぐれいったのはここのこと、私は夜が更けるまで寐ることが出来ない、あわれと思ってもうしばらくつきあって、そして諸国を行脚なすった内のおもしろい談(はなし)をといって打解(うちと)けて幼(おさな)らしくねだった。
(高野聖 泉鏡花)
けれども、くれぐれ、僕の申上た点を誤解なさらないで下さい。これだけは、僕一生の願いです。
(火のついた踵 宮本百合子)
とかくに手離し難かるを、やうやうに思ひあきらめて、仰せに従ふべきよしいひしに、中川様はいひ甲斐ありといたく喜びたまへて、なほもくれぐれ我を慰めたまへたる末、やがてその和子を連れましぬ。
(葛のうら葉 清水紫琴)
こう云う具合に泰さんは、いろいろ沈んだ相手の気を引き立てようとしましたが、新蔵は益々ふさぐ一方で、とうとうそのコップも干さない内に、もう帰り仕度をし始めました。そこで泰さんもやむを得ず、呉々(くれぐれ)も力を落さないようにと、再三親切な言葉を添えてから、電車では心もとないと云うので、車まで云いつけてくれたそうです。
(妖婆 芥川龍之介)
「いいえ。……その……別にソンナ訳じゃありませんけど、あの後家さんがツイこの間来ましてね。呉々(くれぐれ)もよろしく……買手があったら安く売りますからってね」
(山羊髯編輯長 夢野久作)
僕はお袋が立つ時にくれぐれ注意したことなどは全く無頓着になっていた。
(耽溺 岩野泡鳴)
この十三日に、お君様は亡くなりました。お君様は亡くなりましたけれども、若様はお丈夫でございます。お君様のくれぐれの遺言もございますから、このことをどうぞして殿様に一言(ひとこと)お知らせを致したいと苦心致しましたが、私共の手ではどうしてもわかりません。
(大菩薩峠 無明の巻 中里介山)
漢字では「呉呉(呉々)」と書きます。あとに「も」を伴うことが多いように思いますが、青空文庫では「も」のない用例も多数ありました。