【今回の強化表現:ほとばしる】
「勢いよく飛び散る」「喜び・恐怖などでとび上がる」という意味です。では用例を見てみましょう。
暴風雨(あらし)が私の体中を荒れ狂ふ。雷雲(かみなりぐも)のやうに険悪に濁つた血が、迸(ほとばし)り出る出口を探し求めてるやうに、脈管を走り廻つている。
(脱殼 水野仙子)
燧の鉄と石の触れあう音、迸(ほとばし)る火花、ホクチの燃えるかすかな囁き、附け木の燃えつくときの蒼白な焔の色と亜硫酸の臭気、こうした感覚のコムプレッキスには祖先幾百年の夢と詩が結び付いていたような気がする。
(追憶の冬夜 寺田寅彦)
肉と聞いて、うまそうな唾(つば)が口の中から迸(ほとばし)るようであった。
(大菩薩峠 竜神の巻 中里介山)
夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品なユーモアを混える人で、それも全く無意識に迸(ほとばし)り出るといったような所があった。
(温情の裕かな夏目さん 内田魯庵)
巴里という都は、物憎い都である。嘆きや悲しみさえも小唄(こうた)にして、心の傷口を洗って呉れる。媚薬(びやく)の痺(しび)れにも似た中欧の青深い、初夏の晴れた空に、夢のしたたりのように、あちこちに咲き迸(ほとばし)るマロニエの花。
(母子叙情 岡本かの子)
庸三は部屋の真中にある黒い卓の片隅(かたすみ)で、ぺらぺらと原稿紙をめくって行った。原稿は乱暴な字で書きなぐられてあったが、何か荒い情熱が行間に迸(ほとばし)っているのを感じた。
(仮装人物 徳田秋声)
土の赤いテニス・コオトには武官教官が何人か、熱心に勝負を争っている。コオトの上の空間は絶えず何かを破裂させる。同時にネットの右や左へ薄白(うすじろ)い直線を迸(ほとばし)らせる。
(保吉の手帳から 芥川龍之介)
法水の、凄まじい推理力から迸(ほとばし)り出る力に圧せられて、一座の者は化石したように硬くなってしまった。
(オフェリヤ殺し 小栗虫太郎)
恭一も、もう間もなく中学の三年だった。彼は、精いっぱいにその正義感を唇にほとばしらせながら、青ざめた頬を涙でぬらしていた。
(次郎物語 下村湖人)
でも、もしそういうことがあったら、そのことについてはどんな落雷もいとわないわ。そのことについてだけのガラガラピカリは相当であってもいいから、どうか、ほとばしらないでね。
(獄中への手紙 一九四一年(昭和十六年) 宮本百合子)
血や水が「ほとばしる」という用例が多かったですが、それ以外にもいろいろな使い方ができるんですね。漢字では「迸る」と書きます。