【今回の強化表現:かまびすしい】
「やかましい、騒がしい」という意味です。では用例を見てみましょう。
見い、あの悪くさげな僧姿を、高麗あたりからの牒者(まわしもの)がこの大和国を乱しに来おったのではあるまいか、等という流言は至る処に喧(かま)びすしかった。
(津軽の虫の巣 宮本百合子)
北は山にそひて高く、南は海に近くてくだれり。なみの音つねにかまびすしくて、潮風殊にはげしく、内裏は山の中なれば、かの木の丸殿もかくやと、なかなかやうかはりて、いうなるかたも侍りき。
(方丈記 鴨長明)
過ぐる未年(ひつじどし)に才牛(さいぎゅう)市川団十郎が、日本随市川のかまびすしい名声を担(にの)うて、東(あずま)からはるばると、都の早雲長吉座(はやぐもちょうきちざ)に上って来た時も、藤十郎の自信はビクともしなかった。
(藤十郎の恋 菊池寛)
世に道徳論者ありて、日本国に道徳の根本標準を立てんなど喧(かまびす)しく議論して、あるいは儒道に由(よ)らんといい、あるいは仏法に従わんといい、あるいは耶蘇(ヤソ)教を用いんというものあれば、
(日本男子論 福沢諭吉)
この追憶随筆は明治二十九年を起点とする四、五年に当るから、日清(にっしん)戦役が済んで遼東還附(りょうとうかんぷ)に関する問題が囂(かまびす)しく、
(三筋町界隈 斎藤茂吉)
なお前途(ゆくて)の空を視(なが)め視め、かかる日の高い松の上に、蝉の声の喧(かまびす)しい中にも、塒(ねぐら)してその鵲が居はせぬかと、仰いで幹をたたきなどして、
(星女郎 泉鏡花)
時刻は暮に近い頃だったから、日の色は瓦(かわら)にも棟(むね)にも射さないで、眩(まぼ)しい局部もなく、総体が粛然(しゅくぜん)と喧(かま)びすしい十字の街(まち)の上に超越していた。
(満韓ところどころ 夏目漱石)
これが哲学といふものを覗いて見た初で、なぜハルトマンにしたかといふと、その頃十九世紀は鉄道とハルトマンの哲学とを齎(もたら)したと云つた位、最新の大系統として賛否(さんぴ)の声が喧(かまびす)しかつたからである。
(妄想 森鴎外)
漢字では「喧しい」「囂しい」と書きます。後者はほかに「かしがまし(囂し)」「かしましい(囂しい)」「かまかまし(囂囂し)」といった読み方がありますが、すべて「やかましい」という意味です。カモという鳥がいますが、やかましく鳴くところから、この「かま(囂)」が変化して「カモ」になったという説もあるそうです。