【今回の強化表現:はかない】
「あっけない、もろくて長続きしない」「不確かであてにならない、手ごたえがない」「何のかいもない、無益だ」「たいしたものでない、とりとめもない」「思慮分別がない、愚かだ」「みすぼらしい、みじめだ」という意味です。では用例を見てみましょう。
恋慕の情を覚えそめていた――と云うだけの話だから、その少女の方ではどんな風に感じていたのかも判らない。甚だもの果無(はかな)い恋愛である。
(少女 渡辺温)
僕は未(いま)だにその本にあつた、シユタアツ・ヘモロイダリウスと云ふ、不可思議な言葉を記憶してゐる。この言葉は恐らくは一生の間(あひだ)、薄暗い僕の脳味噌(のうみそ)のどこかに木の子のやうに生えてゐるであらう。僕はそんなことを考へると、いつも何か可笑(をか)しい中に儚(はかな)い心もちも感じるのである。
(二人の友 芥川龍之介)
石狩(いしかり)の野は雲低く迷ひて車窓より眺むれば野にも山にも恐ろしき自然の力あふれ、此処に愛なく情(じやう)なく、見るとして荒涼、寂寞、冷厳にして且つ壮大なる光景は恰(あたか)も人間の無力と儚(はかな)さとを冷笑(あざわら)ふが如くに見えた。
(空知川の岸辺 國木田独歩)
この動的な生活感情の明暗の推移を、昔の日本人は、人間の心のはかなさと見た。
(幸福の感覚 宮本百合子)
ある年非常な饑饉(ききん)が来て、米もとれねば木の実もならず、草さへ枯れたことがござった。鳥もけものも、みな飢ゑ死にぢゃ人もばたばた倒れたぢゃ。もう炎天と飢渇(きかつ)の為(ため)に人にも鳥にも、親兄弟の見さかひなく、この世からなる餓鬼道(がきだう)ぢゃ。その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間(あさま)しさはかなさに、泪(なみだ)をながしていらしゃれた。
(二十六夜 宮沢賢治)
へとへとだ。くだらなく徹夜して読書。――財産三拾七銭はかなや。
(生活 林芙美子)
よくも考えないで生意気が云えたもんだ。儚(はかな)い自分、はかない制限(リミテッド)された頭脳(ヘッド)で、よくも己惚(うぬぼ)れて、あんな断言が出来たものだ、と斯う思うと、賤しいとも浅猿(あさま)しいとも云いようなく腹が立つ。
(予が半生の懺悔 二葉亭四迷)
ふたりは、お互いに、ふたり切りになりたくてたまらないのに、でも、それを相手に見破られるのが羞(はずか)しいので、空の蒼(あお)さ、紅葉のはかなさ、美しさ、空気の清浄、社会の混沌(こんとん)、正直者は馬鹿を見る、等という事を、すべて上(うわ)の空(そら)で語り合い、
(犯人 太宰治)
私はこの人の学者らしい徹底したアカデミックなしかたに感心すると同時に、なんだかそこに名状のできない物足りなさあるいは一種のはかなさとでもいったような心持ちがするのを禁ずる事ができなかった。
(案内者 寺田寅彦)
ふだん何気なく使っていますが、たくさんの意味があるのですね。漢字では「果無い」「果敢無い」「儚い」と書きます。