2009年7月17日金曜日

青空文庫を検索しよう【心なし】

 青空文庫とは、日本語の作品で著作権フリーになったものを集めたサイトです。これを用例データベースとして使い、ボキャビルをしてみましょう。

【今回の強化表現:心なし】

 「自分の気のせい、思いなし」という意味です。では用例を見てみましょう。

失敗(しま)つた。誰かに買はれたなと、自分の祕藏の物を奪はれたやうな嫉妬を感じた。けれどもまだ一册殘つてゐるのを少しばかりの慰めにして、彼は又それを手に取つて見たが、心なしか小村雪岱氏の纖細な筆で描かれた綺麗な表紙も何時(いつ)の間にか手擦れ垢じみて來たやうに思はれた。
(貝殼追放 購書美談 水上瀧太郎)

彼女は心なしか少しばかり体を動かしたように思われた。きっと彼女は私が朝鮮の苗字をしているので驚いたのに違いないと考えた。
(光の中に 金史良)

薄い燭光と蚊遣りの煙りに包まれた二人の周囲に、心なしか、何か秘密の作業場と云った雰囲気が感ぜられた。
(十姉妹 山本勝治)

苦み走った浅黒い顔が、心なしか微笑んで、でも三角形に切れの長い眼はお鷹(たか)さまのように鋭(するど)く伝二郎を見下していた。
(釘抜藤吉捕物覚書 怪談抜地獄 林不忘)

心なしか、わたくしが、父の通夜明けの春の宵に不忍(しのばず)の蓮中庵ではじめて会った雛妓かの子とは、殆(ほとん)ど見違えるほど身体にしなやかな肉の力が盛り上り、年頃近い本然の艶(いろ)めきが、坐(すわ)っているだけの物腰にも紛飾を透けて浸潤(うる)んでいる。
(雛妓 岡本かの子)

あの方も、とうとう外にしようがなさそうに「例の面白くもない物忌(ものいみ)になったか」とぶつぶつ言われながら、真夜中近くをお帰りになって往かれた。そういうあの方の後ろ姿は、私の心なしか、いつになくお辛そうにさえ見えた。
(かげろうの日記 堀辰雄)

心なしか母の顔に疲れ切つた様子が薄い膜のやうに出て来はじめたのを民子が気にかけてゐる中に、急に発熱して寝ついてしまつた。
(鳥羽家の子供 田畑修一郎)


 漢字では「心做し、心成し」と書きます。最後に「か」をつけて使うことが多いですね。「心無し」と書けば、「思慮、分別のないこと」という意味になります。