【今回の強化表現:はからずも】
「思いがけず、不意に」という意味です。では用例を見てみましょう。
ところがちょうど三、四カ月ほど前から、はからずも当時あやうく坐礁(ざしょう)沈没をまぬがれた一貨物船の乗組員を中心にして、非常に奇妙な噂(うわさ)が流れ始めた。
(灯台鬼 大阪圭吉)
このとき平靖号が、はからずも一つの大失敗をやったことが、後に至って思いだされることとなったが、まだだれも気がつかない。
(火薬船 海野十三)
けれども彼は家へ帰るとその日からバラバラ日記というものをつけはじめ、職務とは別個に進んで捜査に当ってみようと考えた。そしてこの日記がはからずも後日解決の重要な原因となるのである。
(明治開化 安吾捕物 坂口安吾)
その薫り、その故国の気分――。海を遙かに隔てて、他国の土の上に居る私は、遠く何時かの前に別れを告げた筈の故国に、今図らずもめぐり会った。
(無題 宮本百合子)
これを書き写しながら図らずも思ひ浮ぶのは、モンテエニュがその『随筆』のなかに引用した「哲学を学ぶは死することを学ぶに外(ほか)ならぬ」といふシセロの言葉である。
(ジェイン・グレイ遺文 神西清)
胆振(いぶり)の分水嶺から分かれて西南をさす一連の山波が、地平から力強く伸び上がってだんだん高くなりながら、岩内の南方へ走って来ると、そこに図らずも陸の果てがあったので、
(生まれいずる悩み 有島武郎)
ずつと後になつて分かつたことだが、この青年が計らずも難波大助であつた。
(随筆「断片」 河上肇)
私は計らずも故正岡先生と呉先生との精神上芸術上のこの交渉を見出(いだ)して、不思議な因縁のつらなりに感動したのであったことを今想起する。
(呉秀三先生 斎藤茂吉)
漢字では、「図らずも」「計らずも」と書きます。辞書によっては「図らずも」しか載っていないものもあります。