2010年2月19日金曜日

青空文庫を検索しよう【せめて】

 青空文庫とは、日本語の作品で著作権フリーになったものを集めたサイトです。これを用例データベースとして使い、ボキャビルをしてみましょう。

【今回の強化表現:せめて】

 「しいて、無理に、痛切に」「せいぜい、たかだか」「十分ではないが、やむを得なければこれだけでも」「非常に、たいへん」という意味です。では用例を見てみましょう。

余も我子を亡くした時に深き悲哀の念に堪(た)えなかった、特にこの悲が年と共に消えゆくかと思えば、いかにもあさましく、せめて後の思出にもと、死にし子の面影を書き残した、しかして直(ただち)にこれを東圃君に送って一言を求めた。
(我が子の死 西田幾多郎)

「大身などと昔のことだ。主家を失えば路頭に迷う犬畜生同然、道に落ちた芋の皮も拾って食わねばならん。恥も外聞も云うていられん。せめて子供には手に職をつけて麦飯ぐらいは食えるようにしてやりたいから、よろしくたのむ」
(明治開化 安吾捕物 その十 冷笑鬼 坂口安吾)

老(ふ)けた女のひとに出逢うと、娘の頃にせめていまのようなこころがあったらどんなによかったでしょうと云う。だから、心残りのないように。
(恋愛の微醺 林芙美子)

気にいらぬ楽隊ならさつそく帰つてもらつて他の楽隊と取りかえればいいのであるが、日本ではなかなかそういうわけには行かないから、せめて音楽のアフレコのときには耳に脱脂綿でも詰めていねむりをしているのが、最も良心的とでもいうのであろう。
(映画と音楽 伊丹万作)

せめて郊外へでも行けばそういう点でいくらかぐあいのいい場所があるだろうと思ったが、しかし一方でまたあまり長く電車や汽車に乗り、また重いものをさげて長途を歩くのは今の病気にさわるという懸念があった。
(写生紀行 寺田寅彦)

「あの時分、私はこの堪えがたい人生の苦痛について、せめてそれを輝かしい調子でもの語ろうとした。私は愚痴をいうのがきらいだった」
(私の会ったゴーリキイ 宮本百合子)

私はなるべくどうかして子供に大人の暗さを早く覚えさせたくはない。そして大人もせめて太陽の下では一切を忘却して永久に童心を了解して、初めて子供の世界をより完全により明るく、愉快にしてやることが出来ると同時に大人は永久に若く輝かしいだろう。
(大切な雰囲気 小出楢重)

このように、各地各国には、それぞれの土地においしいものがあるに違いない。各人はせめて自分のいる場所の近くで、魚ではなにがいちばんおいしいか、また、同じ魚を手にしてもその魚のいちばんおいしいところはどの部分か、ということを知らねばならぬ。
(材料か料理か 北大路魯山人)

学校の往還(ゆきかへり)に――すべての物が白雪に掩はれて居る中で――日の映つた石垣の間などに春待顔な雑草を見つけることは、私の楽しみに成つて来た。長い間の冬籠りだ。せめて路傍の草に親しむ。
(路傍の雑草 島崎藤村)

うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
いとせめて恋しき時はうばたまの夜(よる)の衣をかへしてぞきる
(二人の女歌人 片山廣子)


 動詞「責める」の連用形に、接続助詞「て」がついてできた語です。強めていう語として、「せめては」「せめても、せめてもの」があります。