【今回の強化表現:しかつめらしい】
「まじめくさって堅苦しい、もったいぶっている」「もっともらしい」という意味です。では用例を見てみましょう。
弥次郎は、おそらくはザヴィエルに対して、何事につけても非常にしかつめらしい態度で応待しておったんだろうと思います。ザヴィエルはそれを大変に信用しまして、おそらくニッポン人というものについての最初の観念におきまして誤っておりましたので、ニッポン人を見る眼に誤解が起ったんだろうと思われる節があります。
(ヨーロッパ的性格 ニッポン的性格 坂口安吾)
俺は元来デリケートに出来た人間じゃない。君等(きみら)みたいな高等常識を持った記者諸君に「海上の迷信」なんて鹿爪(しかつめ)らしい、学者振った話なんか出来る柄じゃ、むろんないんだ。
(難船小僧 夢野久作)
あの孔丘という先生はなかなかの喰(く)わせものだって云うじゃないか。しかつめらしい顔をして心にもない事を誠しやかに説いていると、えらく甘(あま)い汁(しる)が吸えるものと見えるなあ。
(弟子 中島敦)
ことさらに第二の嘘の仮説を設けたわけは、私は今のこの場合、しかつめらしい名作鑑賞を行おうとしているのではなく、ヘルベルトさんには失礼ながら眼をつぶって貰って、この「女の決闘」という小品を土台にして私が、全く別な物語を試みようとしているからであります。
(女の決闘 太宰治)
理屈は兎(と)もあれ景気の好い面白い花火が揚(あが)れば群衆は喝采(かつさい)するものである。群衆心理なぞと近頃しかつめらしく言ふが、人は時の拍子にかゝると途方も無いことを共感協行するものである。
(平将門 幸田露伴)
帰朝する前日でしたか、ロオタリイ倶楽部(クラブ)での、鐘(ベル)ばかり鳴らしてはその度(たび)に立ったり坐(すわ)ったりする学者ばかりのしかつめらしい招待会から帰ってくると、在留邦人(ほうじん)の歓送会が、夕方から都ホテルであるとのことで、出迎(でむか)えの自動車も来ていて、直(す)ぐとんで行ったのでした。
(オリンポスの果実 田中英光)
こんな風に、しかつめらしい説明をする宿老(とね)たちが、どうかすると居た。多分やはり、語部などの昔語りから、来た話なのであろう。
(死者の書 折口信夫)
タクマ少年は、あざやかに僕をカビ博士に紹介してしまった。カビ博士は少年の義兄(ぎけい)に当たるんだから「ねえ兄さん」とでも呼びかけるかと思いの外(ほか)、そうはしないで「カビ教授」などと、しかつめらしく名を呼ぶところが、なんだかわざとらしかった。だが、それも博士が、特別なる変人だから、そのようにしかつめらしく扱うのかもしれなかった。
(海底都市 海野十三)
房一はすかさずさう口にすると、低く鹿爪(しかつめ)らしいお辞儀をした。どうも、これでは少し固苦しいかな、と自分の声を自分で聞きながら。
(医師高間房一氏 田畑修一郎)
「しかつべらしい」から変化した語で、「鹿爪らしい」と当てることもあります。