【今回の強化表現:うがつ】
「穴をあける、掘る、貫く」「押し分けて進む、通り抜けていく」「人情の機微に巧みに触れる、物事の本質をうまく的確に言い表す、せんさくする」「凝ったことをする」「袴、履物などを身につける」という意味です。では用例を見てみましょう。
すなわち、一、軍船を沈めるのには、すべからく船底に断面積大なる穴をうがつべし。二、第一項の作業を容易ならしむるため、まずもって軍船のスクリューを破壊しおくを有利とす。
(軍用鮫 海野十三)
少しうがつた観方をすれば、彼は、コーヒーを味はふ時よりも、「おれはコーヒーが好きだ」と思ひ、かつ、人からさう思はれることの方が楽しいのである。
(田巻安里のコーヒー 岸田國士)
自分を厭がつたことがなく、汚らしがつたことがなく、人まかせにのんびり暮してゐるから、悪人の悪相が汚らしくも厭でもなく、面白かつたり、珍しかつたり、うがつてゐたり、たのしいのだらう。
(蟹の泡 坂口安吾)
もとより無形の犯罪であるが、そのときの私の陳述が、あまりにも微(び)に入り細(さい)をうがって、いかにも真に迫っているものだから、検事はそれにて罪状明白、証拠充分ということになって、私は、ばかを見るかも知れない。
(春の盗賊 太宰治)
いうや雪駄(せった)をうがって、ゆうぜんとふところ手をしながら、いっそうひゅうひゅうとこがらしの吹きつのりだした往来へ歩きだしましたので、伝六も負けずにあとを追いました。
(右門捕物帖 身代わり花嫁 佐々木味津三)
加害者が若い女で、しかも、初心者の手口だというところから、いうまでもなく、これは情痴の犯罪だ、などと、うがった批評をするものもいた。
(金狼 久生十蘭)
所謂凹みにたまるゴミです。凹みという表現はなかなかうがっていますね、いろんなところに事情に応じていかにも動くのが見えるようで。
(獄中への手紙 一九三八年(昭和十三年) 宮本百合子)
「ユーモア小説」の要求は、何よりも読書は娯楽である、という見地から出て来るものである。こうした見地は、近来いよいよ激しくなって来た。それ以外、何の理由もない。人生をうがっているとか、諷刺的であるとか等の何らかの人生的意味をもたす必要はないのである。
(大衆文芸作法 直木三十五)
目の前には例の岩が屏風の様に立っている。日の光がところどころ霧の幕を穿(うが)って、樅の木立を現わしている。
(木精 森鴎外)
原始時代そのまゝで幾千年人の足跡をとゞめざる大森林を穿(うが)つて列車は一直線に走るのである。
(空知川の岸辺 國木田独歩)
言(ことば)を換へて云へば両著書が小極致とするところは、何(いづ)れにありや、何れにありて同致を見(あら)はすや。曰く、両書共に元禄文学の心膸を穿(うが)ち、之に思ひ思ひの装束を着けて出たるところにあり。
(「伽羅枕」及び「新葉末集」 北村透谷)
漢字では「穿つ」と書きます。「穿」は「穴をあける」という意味です。「穿つ」には「袴、履物などを身につける」という意味もありますが、袴やズボンなどを「はく」という場合もこの漢字を使いますね。